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注目のだじゃらー

Vol.5 石黒謙吾さん

石黒謙吾さん

  • お名前:石黒謙吾さん
  • 生年月日:昭和36年2月15日
  • 出身地:金沢市
  • 職業:著述家・編集者・分類王
  • 趣味:草野球、ビール
  • 私にとってのだじゃれ:知的興奮

「今月のだじゃらー」第5回ゲストは90万部の大ベストセラーとなった『盲導犬クイールの一生』の著者でありながら、だじゃれ界ではその名を知らない人はいない名作『ダジャレ ヌーヴォー』を生み出された、石黒謙吾さんです。
自称“分類王”であり、おそらく日本一だじゃれで稼いでいらっしゃると思われる理論派ダジャリエの石黒さんに、だじゃれをアートする秘訣を語っていただきました。

Q :

『ダジャレ ヌーヴォー』を拝見して、「スゴイな」と同時に、正直、「難しいな」と感じました。

A :

はい、笑える人の方が少数派だと思いますよ。「よく出来てるね」って、愛でる本だと思っています。一言で言うと、アート、総合芸術なんですよ。歌舞伎と一緒だと思います。だじゃれには生成の場と表現の場がありますよね。表現のテクニックとして一例を挙げれば、先に手塚理美の話をしておいてから「サラダ広之」を言うとか(笑)。だから『ダジャレ ヌーヴォー』では、使用する「シチュエーション」とか「前振り(ダジャレを発する前段階で何をするか?)」、イントネーション、間の取り方など効果的に伝えるためのテクニックまで、細かく書いているんです。

Q :

2012年から、ウェブマガジン「DIAMOND ONLINE」で全35回にわたって『科学するダジャレ』を連載されましたね。これまた力作だと思うのですが、こちらを書くことになったきっかけは?

A :

もともとこのサイトで、知的サブカルっぽい連載をやってまして、そのネタが一区切りついたところで新連載やりたくなり、ダジャレのアカデミック研究ものやりたいと自分から提案しました。『ダジャレ ヌーヴォー』を出してから、ダジャレに関して、ラジオ、新聞、雑誌、WEBなど、取材を受けることが多くなりました。また、原稿依頼も同様に。その際、質問に答えたり書いたりしていきながら、学術的なロジックがだんだん蓄積していき、それをまとめなければと思っていたので。代表的な例を挙げると、「石黒式 ダジャレ構造の14分類」でしょうか。母音と子音を軸に、交換、付加、削除、倒置などで分類していくものです。しかし自分としては、拗音、促音、音引き(ーのこと)についてなどは、まだまだ詰め切れていなく、分析途上でもあります。

Q :

「分類王」と自称するほど分類・整理がお好きのようですが、いつ頃そのきっかけが芽生えたのでしょう?

A :

昔から好きでしたね。小学校に入る前に図鑑を買ってもらって、見開き2ページに世界の50種類の蟹が出てきた時の衝撃を今も覚えています。その時に買ってもらった図鑑5冊は3年間ぐらいずっと見ていました。それが分類に興味を持った最初のきっかけだと思います。

Q :

図鑑をくいーるように見ていたんですね(笑)。

A :

そうです。(笑)
社会に出てからは、編集って整理整頓が仕事みたいなものですから、少しずつ分け方の肝みたいなものをつかんでいきました。1999年に『チャート式 試験に出ないニッポンのしくみ』(扶桑社)を出してから、より分けることについてまじめに取り組むようになりました。
ダジャレも分けることにものすごく近い、つまりは分類そのものだと考えています。どういう音のパターンなのかをインプットしておくことが大切です。アウトプットが大事と思われているかもしれませんが、目の前に現れる単語の音を脳にインプットしておくことが8割で、アウトプットは2割というイメージ。
ダジャレは自分の持っているボキャブラリーと、耳から入ってくる膨大な言葉。この2つの扇の要が接した部分から出てくるんです。スピード感を持ってそう処理するためにも、自分の頭の中で音のパターンを分類・整理しておくことが大切なんです。
たとえば、「TPP」問題が話題となった時、「イ段の音引き(ーのこと)」を意識すれば、初めて聞いた時に長淵剛の歌の「ピーピーピー」をパッと思い出すことができます。また、電車の中で中吊りを見てても、「この言葉引っかかるな」というものがあればインプットします。たとえば、「アウンサン・スーチー」とかはダジャレの宝庫です。「炭酸」を取って欲しいシチュエーションで「炭酸・スーチー取って」とか、CAのことを「あのアウンサン・スッチーさん綺麗だね」のように、生み出せます
こんな風に、ダジャレを作ることは「分ける」ことと密接に関係しています。出す時に考えてもパッと出てこないので、音の入れ方、インプットが大事なんです。

石黒謙吾さん

インプット8割でアウトプット2割、扇の要が重要!とダイナミックに語られる

Q :

常に言語化して構造的に捉えているんですね。

A :

言語と言うよりも、記号ですね。言語と考えると日本語の範疇を出ないので、浅くなるんです。アルファベットは26、日本語は51だけど音、たとえばローマ字表記にしてみたら境目がなくなるわけです。ダジャレは発音で生成するものであり、言語と認識しなくていい。言語として考えると広がらない。もっと言ったら数学だと考えています。たとえば「肩大統領」は音引き(ーのこと)がなくなるだけでこれはつまり引き算です。

Q :

石黒謙吾さん

ダジャレは「数学」と、オリジナルの「ダジャレ構造インフォグラフィック」を使って説明される石黒さん

石黒さんにとって、だじゃれとは何ですか?「DIAMOND ONLINE」の連載では、「知的トレーニング」と表現されていたようですが。

A :

それだけじゃないですが、脳のトレーニングとしては有効ですよね。少なくともウケなきゃいけないとかはまったく考えていません。どちらかというと、作る喜び、生み出す喜びのほうが圧倒的に強いです。
もちろん人とのコミュニケーションツールとして使うこともあります。たとえばワインを頼む時に「赤ワイーンください(志村けんさんの「あい〜ん」のポーズをしつつ)」は定番の「ストックもの」です。ただ、コミュニケーションツールになることはおまけだと思っていて、ダジャレはあくまでも総合芸術であり、「粋」の世界です。思いついたからすぐ言ってもダサくなったりもします。いやしいというか。だから思いついたネタでも、然るべきシチュエーションが訪れるまで、3年寝かせるなんてこともありますよ。それだけの大仕事なんです(笑)。

Q :

石黒さんにとって、いいだじゃれの評価軸はありますか?

A :

誰も思いつかないような、「かかり」の深いダジャレですかね。たとえば、「洗たく機・フライドチキン」とかは結構好きですね。「石黒式ダジャレ構造14分類」的には「子音交換」で難しくないですけどね。「アイムソーリー柳宗理」とかは好きなんですが、通じないことが多いです(笑)。
僕の場合は、「布団ふっとんだ」のように、助詞・助動詞が入ったものはダジャレとみなさないというポリシーがあります。「助詞・助動詞」を入れるものを含めると無限に作れちゃうので、「やったぁ」という興奮がまったくないです。せっかく自分の脳を良くするためのトレーニングなのに、緩くしちゃったら意味がない。だから、「布団がふっとんだ」は石黒式のダジャレには含めないことにしているんです。ごくまれな例外は、小学生の時に思いついた「コーディネイトはこーでねーと」。あれはなぜだか許せるんですよね。それがどうしてなのか? 私にとっての哲学的な命題としてまだ残っています(笑)

Q :

我々だじゃれ活用協会では、「○○は●●だ」「○○が●●した」というように、元の言葉と掛け言葉を繰り返す「リピート型」をだじゃれとして定義しています。その方が誰にでもシンプルでわかりやすいからです。

A :

まったく正反対の考えではあります。でも、生け花にも様々な流派があるのだから、それはそれで良いと思いますよ。テレビCMにしても、大塚商会の「たのめ~る」なんかがそうですけど、誰でもわかるというのもひとつの道として有効だと思います。

Q :

我々のスタンスとしては、人間関係を円滑にするためのコミュニケーションツールとして捉えています。だじゃれの大衆性がいいと思っていて、「お菓子」と「駄菓子」という言葉があった時、より親しみを感じたり、誰でも楽しめるのは駄菓子だと思うんです。子どもから大人まで楽しむためにも、ハードルが低いことは大事だと思っています。

A :

協会としての立ち位置を考えると、「広める」考え方は大切ですね。私もだじゃれが知的でスマートなことば遊びとしてどんどん広まってほしいです。

石黒謙吾さん

Q :

今後、何か実現されたいことはありますか?

A :

「ダジャグラム」って言葉を数年前に思いつきました。ダジャレはすなわちアナグラムである、と。次に本を出すなら、ダジャレをサブタイトルにして「ダジャグラムのススメ」的なタイトルにしたいですね。系統立てたロジックがあることを理解してもらうため、あえて、アカデミックな仕上げを狙っています。
「ダジャレ=さむい」と言っていた人が、「ダジャレを言える人って頭いいんだ」とわかってもらいたいなと。だから迎合したり、下りていく気はまったくないんです。「ダジャレ=ハイブロウな知的遊び」ということを広めるために、ダジャレを「なめられないようにする」(笑)というのが僕の使命と考えています。

Q :

我々も「たかがだじゃれ、されどだじゃれ」とよくお伝えしています。だじゃれへの取り組み方の違いはあっても、「だじゃれに光を当てたい」という気持ちは一緒なのではないでしょうか?

A :

そうですね。ラップは「クール」とか格好いいと言われて、だじゃれも同じ構造なのに、「さむーい」とかって言われるのはおかしな状況なんです。ダジャレのステータスをもっともっと上げていきたいです。

<あとがき>

新しく飛び込んでくる言葉から、日々、ダジャレを創作し続ける石黒さん。そのストイックな姿勢はまさに芸術家。次々と飛び出すアート作品に「あーっと圧倒され続けた1時間半でした。
ちなみにご家庭でも思いついたダジャレは日々、口に出されているとのこと。インタビューの合間に奥さまに対応の仕方をお聞きしたところ、基本「スルー」するとのこと(笑)。その姿から、石黒さんの周りで奥さまは「不動明王」と呼ばれているとのことでした(笑)。

石黒謙吾さん


インタビュー&レポート by 鈴木ひでちか

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