注目のだじゃらー Vol.33
気象予報士 南 利幸さん
- お名前:南 利幸(みなみ としゆき)
- 出身地:兵庫県西宮市
- 職業:気象予報士
- 趣味:釣り(ヒラメを釣ってだじゃれが閃くことも!?)
- 私にとってのだじゃれ:潤滑油
今回の「注目のだじゃらー」はNHKの『おはよう日本』で天気予報を担当する南さん。「(夏の暑さに対して)サマーすようにしてください」、「コートを置いておこうと」など毎日の天気とだじゃれを上手く掛け合わせて伝えられています。
天気を伝えるときに何故だじゃれを交えるのか、だじゃれを交えようと決めた転機はいつだったのか、お話を伺いました。
天気予報にはオチがないんか!?からのネタ探し
Q(ひでちか) :
本日はありがとうございます。
早速ですが、天気予報の中でだじゃれを言い始めたきっかけは何ですか?
A(南さん) :
大学の教授がだじゃれをよく使っていたり、小さい頃に住んでいた団地の方がだじゃればっかり言っていたりと昔から親しみがありました。
その中で僕らの年代って初めはラジオの中で天気予報を伝えるところから入るんですが、若い頃って頑張って話せば話すほど内容が一方通行になっちゃうというか...。
▲インタビューは双方向で楽しく進みました(笑)
Q(ひでちか) :
ラジオだとなかなか相手からの反応も返って来なそうですね。
A(南さん) :
当時は毎日放送に角さん(角淳一)というアナウンサーがいて、角さんと落語家さんがパートナーの番組で天気予報を担当していました。
である時、その角さんから「天気予報にはオチがないんか!オチもなく、ただ話してたら聞いてくれへんで、そんなの。」って言われたんです。
Q(ひでちか) :
そんなことがあったのですね。
A(南さん) :
確かに一方的にわーっと喋ってるだけではなくて、ちょっと面白いことでも言わないと人は聞いてくれないなと。特にラジオなんて聞くだけだから、よりその傾向は強いなと感じまして。
それから毎日何か話題を探して、だじゃれでオチでもつけようかなと。
Q(ひでちか) :
だじゃれはオチがつけやすいですからね。
A(南さん) :
小さい頃からよくだじゃれは聞いてたし、ちょっとこれでやってみようかなと、そこからやり始めました。
Q(ひでちか) :
天気にだじゃれを交える転機は意外とお若い頃に来ていたのですね(笑)
A(南さん) :
ただ単に話すだけで上手く行ってなかった時期が20代半ば位でしたので、(だじゃれを)使い始めたのは20代後半からですね。
使いやすい雰囲気をラジオ局の方が作ってくれたっていうのも大きくて。
そのおかげでこちらからもだじゃれを言いやすかったり、向こうからも色々話題を振ってもらえたり。
Q(ひでちか) :
実際に使い出して何か変わりましたか?
A(南さん) :
変わりましたね。
たまに(だじゃれを)言わなかったりすると、「今日はないんか?」と。「なんか探してこい」と毎日(笑)
Q(ひでちか) :
うわ、それはすごい!毎日だからストックもいっぱい溜まったんじゃないですか?
A(南さん) :
そうですね。ただ、言ったらすぐに忘れてましたね(笑)
Q(ひでちか) :
南さんは今NHKの『おはよう日本』や『おはよう関西』を担当されていると思います。
NHKはどうしても固い、真面目なイメージがあるかと思うんですが、だじゃれを使うタイミングや時間帯ってありますか?
▲仕事中の南さん。真剣さが伝わってくる
A(南さん) :
人が外に出たくなるような穏やかな気候のときに季節の紹介で使うことが多いですね。
気象情報は荒れてる時に見てもらうためのものだと思っています。
そのために天気予報を(見てもらうための)下地にしないといけない。
Q(ひでちか) :
先ほどのお話のように単に天気を伝えてるだけだと面白くないということですね。
A(南さん) :
なのでだじゃれを使い、変化球みたいな感じでも構わないので興味を持つ人が増えてくれればと思います。それで天気予報を見る習慣をつけば、この時間帯にやってくれるなと覚えてくれる。そうすると、天気が荒れている一番見てほしいタイミングにも必ず見てくれるんじゃないかな。
Q(ひでちか) :
なるほど、あっ晴れな戦略です!
▲南さんが代表を務める気象予報士事務所のInstagram。穏やかな季節の素晴らしい風景が多く掲載されている
天気と絡めた新たなだじゃれ発想法!?
Q(ひでちか) :
だじゃれは事前に準備をされているんですか?それとも、即興で言うことのほうが多いですか?
A(南さん) :
その時々によりますね。相手のアナウンサーの発言や全国各地の天気を伝える映像に対して「こういうことが言えるな」とかを即興で考えたりもします。
Q(ひでちか) :
天気を伝える映像だと、どういったものがありますか?
A(南さん) :
地域の有名なお花畑の映像とかですね。
Q(ひでちか) :
その映像を見て「この花で何を言おう?」みたいなイメージですか?
A(南さん) :
そうです。
例えばバラの花は春は雷が鳴ったり、雹(ひょう)が降ったりするタイミング、秋は台風のシーズンに咲いてることがある。なので、「バラが咲いてる時の天気はトゲがありますよ。」と言ってみたり。
そんなことを映像を見ながら考えています。
Q(ひでちか) :
面白いですね、天気の知識があるからこそ思いつくだじゃれの考え方です。
A(南さん) :
そうやってテレビで言えるものを日々無意識に探してる感じかもしれませんね。
Q(ひでちか) :
日々言えるものをメモしてるノートやネタ帳ってあるんでしょうか?
A(南さん) :
いえ、ないですね。思いついてテレビで言ってそれっきりです。
Q(ひでちか) :
私もよくだじゃれはツイートと一緒と言ってるんですが、言ったそばからどんどん流れていきますよね。その軽さもだじゃれの良さなのかなと思ってます。
A(南さん) :
本人は覚えてないのに相手は覚えていて、「この間だじゃれ言っているの聞いたよ」とか言われますね。
Q(ひでちか) :
そんな中で覚えているこれまでの傑作はありますか?
A(南さん) :
傑作ですか...。たまに5・7・5の川柳とだじゃれを絡めることがあるんですね。その時に川柳の先生に「あのだじゃれよかったですね」とまじまじと褒められたことはあります。
Q(ひでちか) :
川柳の先生からだじゃれを褒められるとは、驚きですね。
どういった川柳だったのですか?
A(南さん) :
その日は秋が深まり気温が氷点下になったのですが、
「氷点下 そろそろ パッチ履いてんか?」
とだじゃれ川柳を詠みました。
股引(ももひき)のことを関西弁で「パッチ」って言うんです。
Q(ひでちか) :
「履いてんか?」も関西弁ですか?
A(南さん) :
そうです。「履いてくださいね」っていう意味になります。
Q(ひでちか) :
「氷点下」と「履いてんか」で上手く掛けたのですね。
A(南さん) :
テレビでポロッと言ったそのだじゃれがきっかけで、後日、その先生の川柳番組に招いてもらいました(笑)
Q(ひでちか) :
だじゃれが繋いだ縁ですね。
番組前の水面下での探り合い
Q(ひでちか) :
関西で放送される番組と全国放送の番組でだじゃれの出し方に違いはあるのでしょうか?
A(南さん) :
テレビは目の前に人がいるわけじゃないので、なかなか反応は分からないのですが...
講演だと関西はだじゃれがしっかりウケますね。
関東では2パターンに分かれます。
僕のことを知っていてくれる人だとハイハイと分かってくれるのですが、全く僕のことを知らない人だと「何してんの、この人は」と(笑)
▲南さんの講演風景
Q(ひでちか) :
関東は感動が薄いのですね(笑)
A(南さん) :
「今日だじゃれ言いますよ」って雰囲気で講演に入っていくと、受け入れてもらいやすいのかなと思ってます。
Q(ひでちか) :
私も企業研修の講師を行うことがありますが、最初は場が固く「どんな話をするんだろう」と構えた感じの人が多くて...。その時にあえて最初にだじゃれを使ってます。
A(南さん) :
ああ、なるほどなるほど。
Q(ひでちか) :
私の中ではその部屋の温度を測るようなイメージです。
A(南さん) :
考え方は凄く近いです。
ただ最初のだじゃれでリアクションが薄いとは「今日どうしようかなあ...この後、1時間半時間あるんだけどなぁ」と(笑)
Q(ひでちか) :
テレビだと視聴者の反応は分からないにしても、アナウンサーの方はいますよね。
南さんにとってアナウンサーの方の理想のリアクションってありますか?
A(南さん) :
まずですね、(アナウンサーの方でも)困ってる人は困ってると(笑)
その上で、上手に受け流す感じで全然良いです。それに対して返さなくても全然。
関西で言うと、「ハイハイ何言うてんの」みたいな感じで流してもらうのが1番やなって。
Q(ひでちか) :
繰り返されたり「これはこういうこと(だじゃれ)ですか?」と解説されたりすることはないですか?(笑)
A(南さん) :
ま、それも面白いんだけどね。ですから「ちゃんと解説してくれてありがとうございます」と伝えます。
Q(ひでちか) :
相手も「南さんだから何かだじゃれが来るかもな」とか、そういう空気はあるのですか?
A(南さん) :
そうですね、何となくイメージはしていると思います。
Q(ひでちか) :
事前に打ち合わせはするのですか?
A(南さん) :
番組については行いますが、だじゃれについては一切しないですね。
よく天気の映像を見て最後ちょっとフリーで話をしましょうって流れになるんです。 まず、初見のところでどうだじゃれを言おうかっていうのを何パターンか考えて…相手のアナウンサーとお互いに探り合いながら本番に向かいます。
Q(ひでちか) :
出てからのお楽しみなのですね!
A(南さん) :
そうです、お互いに何を言うのか分からない中でアナウンサーから先にだじゃれを繰り出されることもあります。
Q(ひでちか) :
凄い、先制パンチだ。
A(南さん) :
そうやって急に言われた時、どこをどう返すか...そこが1つの面白さです(笑)
Q(ひでちか) :
高度な心理戦ですね。
だじゃれも天気も「読み」が大切
Q(ひでちか) :
気象予報士の育成もされていると思いますが、そこではだじゃれは教えているのですか?
▲南気象予報士事務所のHP
A(南さん) :
いやいやいや、だじゃれはまだ(笑)
ただ、所属(南気象予報士事務所)の子でだじゃれを言う子はいますね。
Q(ひでちか) :
それはやっぱり南さんの影響でしょうか?
A(南さん) :
それはどうかわかんないです。
「うちの事務所に所属してるんだったら、だじゃれの1つでも言えるでしょ!」ってリクエストされているのかもしれないです。
Q(ひでちか) :
天気を伝える際にだじゃれが求められているのですね。
A(南さん) :
だじゃれを言うのは総じて場の雰囲気を和ますことが上手な子ですね。
やっぱりちょっと勇気がいるみたいです。「この場で言ったらこの後どうなるのかな?」って計算しちゃう子はなかなか言えないと思う。
ちゃんと言える子は言った後の場の雰囲気を上手に転がしていきますね。
Q(ひでちか) :
協会でもだじゃれを言うときには「愛と勇気と遊び心」が大事だと伝えています。この辺りのマインドが大事だと。やっぱり言えばいいっていうものではなく、何のために言うか。
警報が出てる時とか痛ましいニュースがある時はやっぱり控えるべきだと思いますし。
A(南さん) :
そうですね。やっぱり相手を落とすようなだじゃれは聞いてて気持ちが良いものではないですし、相手のことを考えて雰囲気を読みつつ使っていきたいですね。
Q(ひでちか) :
これからも雰囲気も空模様もばっちり読める南さんのだじゃれ楽しみにしています!本日はありがとうございました。
<あとがき>
インタビューで印象的だったのは南さんの「気象情報は天候が荒れているときに見てもらうもの」という言葉。そのために毎日の天気予報を楽しくする…そんな姿勢に感動しました(関東に住んでいますが)。
南さんのだじゃれを交えた天気予報を聞いた人はたとえその日の空が雨模様でも心は晴れやかなはず。今後は南さんとアナウンサーの方との高度な心理戦にもチェックしていきたいと思います。
▲楽しい話を聞けたので、この日の天気同様、晴れ晴れした気持ちでした
インタビュー by 鈴木ひでちか
レポート by 電気とデニム
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◇公式HP
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