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注目のだじゃらー

注目のだじゃらー Vol.11 齋藤孝滋さん

齋藤孝滋さん

  • お名前:齋藤孝滋(さいとうこうじ)
  • 生年月日:昭和38年
  • 出身地:岩手県久慈市
  • 職業:フェリス女学院大学
       大学院人文科学研究科・文学部コミュニケーション学科 教授
  • 趣味:生活の一部としての柔道
  • 私にとってのだじゃれ:生活の一部

一般的に“だじゃれ”と最も親和性の低い世代と思われているだろう“女子大生”。そんな思い込みを覆すようなサークルが、横浜の名門フェリス女学院大学にあるという。その名も“ダジャレ・ヌーボーsince2003”。奇しくも今月のだじゃらーVol.5に登場くださった石黒謙吾さんの名著と同じタイトルだ。これまで様々なメディアでも取り上げられたこのサークルだが、2014年2月に「現在の部員は4年生が一人だけ」と報じられて以来続報がなくその存亡が心配されている。そこで今回、顧問の齋藤教授にお時間をいただき、現況をお伺いしてきた。

【ダジャレ・ヌーボーsince2003】

Q :

新年度が始まったばかりでお忙しい中お時間いただき、ありがとうございます。

A :

いえいえ、むしろ昨年度までの仕事・活動がヤマを越し、今は以前よりは余裕ができましたから

Q :

早速ですが、“ダジャレ・ヌーボーsince2003”の活動についてお聞かせくださいますか?

A :

この活動は教員と学生が一緒につくる“フェリス・フレンドリー・グループ”の一つとして学生課が取りまとめています。
元々は2003年の秋に研究室の飲み会に参加した学生たちとだじゃれ談義で盛り上がり、サークルを作ろうという話になりました。ちょうどボジョレーヌーボーの解禁時期だったので、“ダジャレヌーボー”という名前もすぐに決まりました。その後何年かしてから、同じタイトルの本を見つけて「同じ発想される人がいるんだ」と嬉しくなりおおいに勇気づけられたのですが、「この名前を使い始めたのはコチラが先だ」と“since2003”を付けたという次第です。
日常のサークル活動の一つに、メンバーがだじゃれ創作作品を持ち寄っての披露会がありますが、お互いにほめ殺しの様相を呈しています。だじゃれは相手を貶めて笑いをとるようなものではなく、優しさに溢れたものなのです。

Q :

近年の“ダジャレ・ヌーボーsince2003”の状況は?

A :

2011年の震災後、私が言語研究・方言研究でお世話になっている陸前高田市の支援活動、その他の活動などで多忙になり、サークルの活動や部員の勧誘に手が回らなくなってメンバーが少なくなってしまいましたが、今年度からは改めて力を入れて行こうと考えている所です。

齋藤孝滋さん

今年度のダジャレ・ヌーボーsince2003勧誘パンフ

Q :

2003年以来、延べで何名くらいの方が在籍されたのでしょう?

A :

50名くらいでしょうかね。卒業生には教職に進んだ人も多く、国語教師や日本語教師として活躍していますよ。これまでもいろんなメディアが取材に来てくれたりしましたが、かつて“最強の三人”というのがいまして、”D1だじゃれグランプリ”の予選に出場したり、テレビ番組で芸人さんとだじゃれ対決したりもしていました。その後の卒業メンバーにはご当地音楽ユニットのメンバーとして既にCDを2枚リリースしているOGもいるのですが、彼女の卒論のテーマが「震災前後のだじゃれを扱った番組数の推移」といったものだったんです。学術的にも興味深い結果が見出されています。

【被災地支援とだじゃれ】

Q :

先生は被災地での活動にも加わってらっしゃるとのことですが、だじゃれによる支援というのは可能なんでしょうか。

A :

震災発生からしばらくは、だじゃれで何か、なんて想いもよらなかったのですが、先ほどのメンバーの卒論でも報告されていますが、4〜5年後くらいからだじゃれを使った番組も徐々に増えて来ているようです。現地では、まず “がんばっぺし!”のような方言をつかったキャッチフレーズから始まって、ほんわかして和めるようなだじゃれの力を使っていけると思います。


Q :

具体的にはどんなふうにだじゃれを使われようと?

A :

私は外部からの支援者ではなく、地元の意識で一緒にやっていけたらと思います。これまで言語研究として集めた方言データを活用しただじゃれに今年度はチャレンジしたいと。例えば、かぼちゃのことを“とうなす”と呼ぶ地域があるんですが、そこで子どもたちにかぼちゃを見せながら「機関車とーなすは好きかい?」って聞くと大きなほほえましい笑いが起こります。そしてそれが方言の話し手でいらっしゃるご高齢の方々と子どもたち間の世代を超えた楽しいコミュニケーションの呼び水となることもしばしばあるのです。

【時空を超えるだじゃれ】

Q :

ダジャレ・ヌーボーsince2003の紹介冊子に「古代メソポタミアの国際語は日本語に負けず劣らず同音異義語が多い」と書かれていますが、メソポタミアでもだじゃれが盛んだったのでしょうか

A :

シュメール語ですね。例えば・・(とシュメールの絵文字を紙に書きながら説明してくださる)。このように偶然とてもよく似た音韻構造になっているんですね。こうした時空を超えて楽しゅめーることができるのもだじゃれの特徴ですね。ちなみにシュメール時代にだじゃれ文化が花開いたかどうかは不明です。

齋藤孝滋さん

齋藤教授創作の「あなたの家(e−zu)」の場所を示す、古代メソポタミアと現代日本の時空を超えただじゃれ「絵図(e−zu)」
赤く囲んだ部分が「e(家)zu(あなたの) ⇒「あなたの家」という意味。



Q :

「だじゃれによる絵文字カレンダーづくり」というのもダジャレ・ヌーボーsince2003の活動内容として紹介されていますが、こちらは?

A :

日本ではだじゃれは弱者を助けるような使い方もされてきました。『南部絵暦(なんぶえごよみ)』が有名ですが、文字を読めない農民に季節を伝えるためにつくられました。例えば、春が過ぎてそろそろ田植え、といった季節には、屈強な大男が旅人の荷物をひったくろうとする絵が示されます。“荷奪い”→にうばいにゅうばい→“入梅”という訳です。だじゃれとは本来こうした優しさに溢れたもので、最近の一部の芸人さんのように“いじる”っていうんですか、個人や文化を貶めて笑いをとるようなものとは真逆なものです。

Q :

だじゃれは”オヤジギャグ”という呼ばれ方がありますが、これに対してはどのようにお考えになりますか。

A :

自己主張のために連発されるだじゃれですね。あれはよくないですね(苦笑)。“ギャグ”は、欧州の演劇の中でストーリーと関係なく強引に観客の気を惹こうとする手法をさす言葉なんです。やはり、だじゃれには優しさが必要です。文房具のコマーシャルでしたっけ、「コピー機のトナー買っとかないとなー」などもオヤジギャグと呼ばれたりするのですが、あれは、指示や命令を和やかに伝えるという意味では優しさがありますから、いいだじゃれだと思います。

【柔道とだじゃれ】

Q :

先生は柔道修行者でもいらっしゃるのですよね

A :

私の生まれは岩手県の久慈市なんですが、久慈出身の柔道家、「隅落とし(空気投)」・「大車」で有名な三船久蔵十段は遠縁にあたります。祖父母の家には三船十段の写真が飾ってあったりして、幼い頃から自然に柔道が意識の中に入り込んでいました。

Q :

さきほどお話に出た“D1だじゃれグランプリ”でも、だじゃれのお題プラカードを持ってくる“だじゃれちゃん”が柔道着姿だったり、判定の仕方が柔道の審判スタイルだったりするのですが、もしかして柔道とだじゃれには相通じるものがあるのでしょうか?

A :

柔道の精神に「精力善用」「自他共栄」とあるように、社会の役に立つという精神で共通する所があります。柔道の基本を表す言葉として「崩し」「作り」「かけ」というものがあります。相手を揺さぶり(崩し)技をかけやすい状態にし(作り)技を繰り出す(かけ)というわけです。だじゃれでも、ネタになる言葉を引き出し(崩し)似た言葉を見つけ出し(作り)だじゃれを繰り出す(かけ)という基本がなりたちます。

齋藤孝滋さん

こう投げるんですよ。と実演交えて「崩し」「作り」「かけ」を解説してくださった齋藤教授。「柔道の精神や理念は、だじゃれを含めて様々なものに適用できる、奥深く洗練されたものだと思います」と語っておられました



Q :

確かに!私たちは、相手にだじゃれを言わせたいとき、掛け言葉を思いつきやすい言葉を投げかけたりします。そして相手が言えただじゃれを受けてさらにだじゃれを言う。これなんか柔道の技で言うと“巴投げ”のようなものでしょうか。

A :

柔道では「先の先」「後の先」といいますが、いまのお話は「後の先」ですね。
あと、マスターズの世界チャンピオンでいらっしゃる宮本隆先生(神奈川)、全日本選手権大会で活躍された千葉正宏先生(岩手)、ロス五輪メダリストでいらっしゃる野瀬清喜先生らの、跳腰や内股で投げた後の姿勢を数秒維持する「残身」はもはや芸術の域です。鮮やかな技の余韻がその瞬間を刻み込みます。だじゃれでもその場にそんな余韻を残せるようになるといいですね。

Q :

そんなだじゃれが使えるように精進します。今日はありがとうございました。

A :

活用協会さんの活動も斬新ですよね!授業の中でも紹介させていただきます。どうぞ頑張ってください。

<あとがき>

フェリス女学院大学が公開されているシラバス(講義計画書)検索システムから“ダジャレ”をキーワードに検索をすると、齋藤教授のゼミ講座が表示されます。
そんな”ダジャレ学者”齋藤教授に最初にコンタクトしたのが、昨年秋。その当時は様々な活動で全く余裕のない中でしたが、新年度ならば対応可能との丁寧なご返信をいただき、今回のインタビューとなりました。インタビュー当日も、入構の方法や注意事項をメールでお知らせいただき、正門までのお出迎えくださるなど、一つ一つ手厚いお心遣いをいただき、まさに「だじゃらーかくあるべし」とお手本とさせていただき鼠(まうす)

インタビュー&レポート:にしっぽ 撮影:まっつう

齋藤孝滋さん

追記:インタビューの数日後「ダジャレ・ヌーボーsince2003に強力なメンバーの入会がありました。キャプテンも決定し、今後の活動展開が楽しみです」とのメッセージをいただきました!ぜひ新メンバーの皆さんにもお会いしてレポートしたいな〜

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