Vol.1 立川らく朝さん
- お名前:立川らく朝
- 生年月日:昭和29年1月26日
- 出身地:長野県飯田市
- 職業:落語家(医学博士)
- 趣味:スキー・テニス
- 私にとってのだじゃれ:ネタに困ったときの最後の頼みの綱
新コーナー「今月のだじゃらー」の記念すべき第1回ゲストは、落語家の立川らく朝さん!
らく朝さんは、4月に行われた「立川流・真打トライアル」を見事にトップで通過し、10月1日付けで真打昇進が決定されています。落語家でありながら、内科医の経歴もお持ちの立川らく朝さんに、医学的な見地から「だじゃれの良いところはないかい?」とお話を伺ってみました!
Q :
まずは真打昇進、おめでとうございます!5名の候補者の中、トップで昇進を決定されたとのこと、らく朝さんだけに「らく勝」だったのでしょうか?
A :
いやいや(笑)私も必死でしたよ。
Q :
早速ですが、落語家でもありながら内科医の経歴をもつらく朝さんに「笑いと健康」の関係性を伺ってもよろしいでしょうか?
A :
笑いが健康にもたらす効果としては、医学的に3つのことが証明されています。
1つ目は低下した免疫力を正常に戻す効果です。免疫力が高まることで、ウイルスやばい菌などへの感染防御力が上がります。笑いの効果として最も注目が集まっているのが、ナチュラルキラー(NK)細胞の活性を正常に戻してくれること。NK細胞はガン細胞をやっつけてくれます。つまり、笑うことはガンの予防になるんです。
2つ目は血圧を下げる効果です。笑うことによって、人の体は副交感神経が優位になります。副交感神経が優位の状態とは、寝ている時やご飯を食べている時などリラックスした状態。この反対が交感神経優位の状態で興奮したり、ストレスがかかった時の状態。人の体はこの交感神経と副交感神経を切り替えることで、循環器や消化器などの活動を自動的にコントロールしています(このことから「自律神経」と呼ばれる)。これによって血圧や脈拍を調整するわけですが、笑いは副交感神経優位のリラックス状態を作って、血圧を下げてくれるわけです。
3つ目は血糖値を下げる効果です。笑うことで遺伝子の作用で血糖値の上昇が抑えられ、糖尿病の改善が期待できます。大阪の糖尿病専門の病院で患者が漫才のDVDを見た結果、実際に血糖値が下がったという例もあります。
こんな風に笑うことは、ガン・高血圧・糖尿病の全てに対して予防効果があるのです。
Q :
ストレスの多い現代社会。中々、スイッチがオフになる時間が少ないですよね。
A :
そうですよね。会社にいると特にそうでしょうね。企業の現場で笑いを取り入れたら業績が上がったという話もあります。笑っている時は、脳からアルファ波が出ると言われます。アルファ波が出るとインスピレーションが湧く。企業戦略もインスピレーションが大事でしょうから、キリキリしながら会議をしているよりも、笑いながら会議をした方がよい結果が出ると思いますね。
笑顔でインタビューに答えて下さるらく朝さん(右)と代表理事の鈴木ひでちか(左)
Q :
実際に生活に笑いを取り入れるとなると、やはりオススメは落語でしょうか?
A :
一日中落語を聞いているわけにもいかないでしょうし、落語は「さぁ聞くぞ!」という状態にならないとなかなか聞けないですからね。
普段の生活に笑いをどう取り入れるかといったら、必要なのは相手への思いやり・気遣いですよ。
笑いのある場所には必ずサービス精神があります。お互いが「イヤな野郎だ」と思っていたら笑いは生まれません。相手に対する思いやり、大きくいったら人への愛情です。これがあるからこそ、コミュニケーションの中に笑いが発生してくるんだと思います。
だじゃれを言うにしたって、愛情じゃないですか?だじゃれを言う前に、相手に対する愛情がなければだじゃれも生まれない。まず気遣いがないと笑いは生まれません。笑いを生もうと思ったら、もっとお互いに気を使うべきだと思います。
Q :
すごく同感です。我々、だじゃれ活用協会としても、目の前のことに追われて人間関係がギスギスしがちな職場でこそ、周囲への愛情表現としてだじゃれを活用すべきではないかと考えています。何か先生から、こういう風にだじゃれを使ったらよいのでは?とアドバイスをいただけないでしょうか?
A :
固い空気の中で誰かがポーンとだじゃれを言うことで、ガラッと雰囲気が変わるっていうのは大きな効果ですよね。使い方について一つ注意点があるとしたら、TPOはわきまえないといけないかなと思います。オヤジギャグってありますよね?あれで結構、被害を受けている人も多いですよね。何でも連発すればいいってもんじゃない。ここが一番難しいところだと思うんですが、TPOをわきまえてだじゃれを出すセンスを磨く必要があるんではないでしょうか?
だじゃれ自体は日本語だから日本人なら誰でもできるんでしょうけど、TPOをわきまえるというのはセンスですからね。こういう時にだじゃれを言えば効果があるだろう。ここで言ったらまずいだろう。これ以上言ったら・・・こういうのはセンスだから、分かる人にはすごく効果的でしょうし、それが分からないとただの迷惑ツールになってしまうんでしょうね。
Q :
本当にその通りですね。我々が開催している、だじゃれワークショップ“ダジャーレdeござ~る!”の中でも、まさに「オヤジギャグとだじゃれは違う」ということを力説しています(笑)。 ところで、落語のオチとしてだじゃれが使われていることは結構、多いなと感じています。例えば、先生が真打トライアルの決勝で使われた演目『佃煮屋』の中でも「シジミを買ったカイがありました」というオチがありました。オチとだじゃれにはどのような関係性があるのでしょう?
A :
洒落は落語の世界では「地口落ち」と呼ばれています。オチの中でも最もレベルが低いものとされていて、なるべく地口落ちにはしないようにしています(笑) だじゃれって簡単じゃないですか。作る側としては、安易とされて評価されづらいんです。『佃煮屋』に関しても、師匠に「何だあれは?もっときれいに落とせ」って怒られました(笑)やはりプロが語るものとしては、「なるほど!」というオチにしないといけないので、「地口かよ!もうちょっと考えろよ」となるんですね。もちろん、落語の中でも「なるほど!これはよくできている」という秀逸な地口落ちもありますけどね・・・
洒落は落語の世界では「地口落ち」と呼ばれているそうです
Q :
そんな「地口落ち」でも、先生の落語の中では、ドッと会場に笑いが起こることは多いように思いますが?
A :
だじゃれ(地口落ち)が悪いわけではないです。作る側にとって安易で簡単ということは、みんなにとっても分かりやすいということですよね。
Q :
そうですね。我々は、だじゃれは小学生でも言える難易度が低くて公共性の高いユーモアと捉えています。
A :
落語の中では「くすぐり」と呼んだりもします。かるーい、だじゃれ。大爆笑は起きないかも知れないけど、クスクス笑いくらいは起きるだろうというもの。ボクシングで言うところの、軽いジャブみたいなものですね。
Q :
なるほど。これはオフレコかも知れませんが、何かオチを考えるコツのようなものはあるんでしょうか?
A :
いやー、特別なものはないですよ。ひたすら考え続けるだけです。落語はできているのに、オチだけできてなくて高座にかけられずに焦るなんてこともよくあります。何か取っ掛かりはないかな?よいフレーズはないかな?といつも必死ですね。
Q :
そうなんですね。聞く人のリラックス状態を作るために、自分にはストレスがかかる。とても大変な仕事ですね。最後になりますが、今回、真打に昇進されたことで、今後の活動に向けて何かお気持ちの変化はありますか?
A :
いや、特にないですね。やることは同じですよ。真打になったからといって、これまでと変えるつもりはないです。古典落語をやり続け、新しいものを作る。そういう意味では基本は変わらないですね。
Q :
ブレのないところが素敵ですね。今日は貴重なお話をありがとうございました!だじゃれ協会としても、今後の活動に活かすヒントと勇気をたくさんいただけました。先生の今後の益々のご活躍を楽しみにしています!
A :
ありがとうございました。是非、がんばってください。
著書『爆笑する組織』を手にらく朝さんとパチリ。まさにラクチョアリーな時間でした!
<あとがき>
医者としての経歴を持ちながらプロの落語家でもあるという、らく朝さんの存在を知った時から「だじゃれの有効性を医学的な立場から後押ししていただけるのでは?」と密かに思っていました。それが今回、「今月のだじゃらー」の第1回ゲストとしてお迎えできたことは、協会としてこの上ない喜びでした。
期待していた「笑いと健康」の関係に加え、「笑いには相手への思いやりが必要」「だじゃれはみんなにとって分かりやすい」など、私どもの考えていたこととピッタリのお話を伺うことができました。何とも幸せで贅沢。これぞ、ラクチョアリー(ラグジュアリー)な時間でした!