注目のだじゃらー Vol.20 平井 伸治さん
- お名前:平井 伸治(ひらい しんじ)
- 生年月日:昭和36年9月17日
- 職業:鳥取県知事
- 趣味:家族のためのそば打ち、水泳
- 私にとってのだじゃれ:相手の心にかける架け橋
『鳥取にはスタバはないけど、日本一のスナバがある』
初めてこのフレーズを耳にした時から「是非、一度お会いしたい!」と思っていた鳥取県の平井県知事。「ダジャーレdeござ~る@松江初開催」に乗じて、鳥取県庁で遂にお会いすることができました!ご多忙なスケジュールの中、当初予定していた時間を大幅に上回って、だじゃれにまつわるエピソードをたっぷりとお話いただきました!!
Q :
恐らく知事にとっても「だじゃれだけ」を目的にしたインタビューは初めてではないでしょうか?
A :
そうですね。たまにそういう趣旨のテレビ取材もありますが(笑)
Q :
まず鳥取だけに、てっとり早くお伺いしたいのですが、どのような意図や想いを持って“だじゃれ”を活用されているのでしょうか?
A :
元々、だじゃれを使っていた訳ではなかったんです。東国原さんが宮崎県知事になられて、その直後に私が今の職務に就きました。その頃から知事の位置付けが変わってきていて、単に政策を打ち出したり実行するだけでなく、観光地・特産品を売り込むセールスマンとしての役割も期待されるようになっていたんです。特に鳥取県は人口が少ないというハンディキャップを持っているので、先回りしてどんどん飛び込んでいかないといけません。
Q :
鳥取だけに、先取りしないといけないんですね?
A :
そうなんです(笑)それで色々とPRに力を入れました。スイカの季節には「カロチンが沢山含まれてますよ。皮にも栄養がありますよ。天候が良かったので糖度が12度もありますよ」とか、鳥取出身の詩人・尾崎放哉(おざきほうさい)の「西瓜の青さ ごろごろとみて 庵に入る」という句を使って売り込みをしようとしました。
Q :
まじめにPRされたんですね。
A :
そうなんです。ところが、デパートや市場といった売り場での反応は良いのですが、その場で終わってしまってそこから先にはなかなか届かなかったんです。大きな県と違って広告費もあまりないので、コマーシャルを打ったりもできない。
そんな時に異変が起きたんです。それが例のスターバックスの騒ぎです。スターバックスさんが全47都道府県に出店するという戦略を出し、平成24年度に初めて島根県にお店ができたんです。松江で大行列ができたと大騒ぎになって、その連鎖でメディアが「鳥取県には唯一スタバがない」と取り上げる構図が生まれたんです(笑)
Q :
それからどうなったんですか?
A :
東京の某TV局からインタビューの依頼がありました。「島根県にスタバができて、唯一スタバがない県となった鳥取県のトップの見解を問う」と(笑)
秘書も険しい顔をして、「これは断りましょう」と言ってました。さすがに「止めよう」という話もありましたが、私は情報公開が県政への住民参加のキーだと思っているので、最終的には「受けて立とう!」ということになりました。世間が鳥取に注目して、全国ネットで鳥取県が放送されることは滅多にないので「ここは勝負をしよう!」と。
↑最新のキャッチコピー『星取県』のポスターを前に笑顔でお話される平井県知事(右)
Q :
逆転の発想ですね。
A :
30分の取材だったのですが、色々とPRしました。「鳥取にはスタバはないけど、ドトールコーヒーなら3軒もある」とか、澤井珈琲という楽天で売り上げNo.1のコーヒー屋さんもあるので「鳥取はコーヒーの聖地なのでスターバックスさんも恐れをなしているのでしょう」とか。ところがこれらは全てカットされました(笑)
その中で唯一残ったのが『鳥取にはスタバはないですが、日本一のスナバ(鳥取大砂丘)があります』だったんです。なぜかこのフレーズだけが放送されたんですね。最初はさっぱり状況が分からなかったですね。東京のTV局で鳥取では放送されなかったのですが、周りがザワザワし始めた。「スタバだスナバと大騒ぎになっている」と(笑)ネット社会ってスゴイですね。TVでわずか数十秒放送されただけでしたが、それが一気に拡散したんです。
Q :
それが最初のきっかけだったんですね。
A :
そこから訳の分からない展開になって行きましたね。ある日、突然「すなば珈琲」というのができたと(笑)
Q :
元々は居酒屋さんだったとか?
A :
そうなんです。地元では超有名店だったんです。お店に応援に行ったら、ワイドショーの取材がたくさん来ていて、景気づけに!とコーヒーカップを片手に社長さんと一緒に「スタバの本拠地シアトルに行こう!」ってやったんです。
そういうことを繰り返しているうちに、「こうした方が相手の心に届くんだなぁ」ということが分かってきて、段々と“だじゃれ知事”のイメージが定着していったんです(笑)
↑メディアですっかりおなじみの『すなば珈琲』。しっかり立ち寄って来ました!
Q :
すると『スナバ』発言はたまたまだったのですか?
A :
たまたまです。たまたまですが、砂丘と鳥取県をPRする格好のキャッチコピーになりました。やがて鳥取県にもスターバックスの出店が決まりました。鳥取県を全国にPRできる100年に一度のチャンスです。案の定、かつてないくらいの数のカメラが来てくれました。メディアの皆さんから「知事どうですか?はじめて飲んだフラペチーノの印象は?」と聞かれたので、『スタバさん、さすなば!』と言ったらこれもネットに流れたんです(笑)さらに『フラペチーノ素晴らしかったです。次は是非、スナペチーノも作って欲ちーの』とリクエストさせてもらいました(笑)
Q :
スゴイですね!だじゃれは事前に用意されているんですか?
A :
「これは聞かれるな」というときは、一時間前くらいから頭の整理をしています。例えば「鳥取砂丘コナン空港」を売り出したときは『鳥取砂丘コナン空港に来なんかい?』って(笑)これは完全にメディア受けをねらいに行きました。「鳥取砂丘にコナン空港ができました。遊びに来てください!」だけでは伝わらないですね。
Q :
逆にだじゃれで苦労されていることはありますか?
A :
ちょっと厄介なのが「新商品ができたら平井のところに行け!」という雰囲気になっていて、これが結構つらいですね(笑)特にメディアの皆さんは何か言わないと帰ってくれません(笑)
Q :
それは大変ですね。だじゃれは頭の回転が早くないと出てこないですからね。
A :
そうなんです。そこの苦労をなかなか分かってもらえない(笑)
↑「酉年」に掛けて鳥取県中部地震の復興をPRする『とっとりで待っとります!』キャンペーンの画像
Q :
トースターみたいに、入れればポン!と出てくると思われるとツラいですよね。
A :
こういう商売なので、ある程度ジョークのネタを持っていないといけないんですが、だじゃれは考えないといけないですからね。
ピンク色のカレーや醤油を売り出したことがあって、ゲストに林家ペーパー夫妻をお招きしたんです。そしたら、ペーさんもだじゃれ好きで、メディアの取材に『ピンクのカレー、これはおいしい。鳥取砂丘だから、サンキューかな』と仰ったんです。実は私も同じネタを用意していたんです(笑)
Q :
先に取られてしまった(笑)
A :
同じことも言えないし、どうしようかな?って考えてたら「じゃ知事、最後に一言どうぞ!」って言われちゃって・・・
Q :
そんなにサッキュウには出てこないですよね?(笑)
A :
そうなんです!!そこでまさに即興で、『師匠、サッキュウに砂丘にいらしてください!』って切り返したんです(笑)
Q :
素晴らしい!!
最後に知事にとって“だじゃれ”とは?
A :
「相手の心にかける架け橋」の役割じゃないでしょうか。アイディア一つ言葉一つで世の中を変えたり、メッセージを伝えられる道具立てなのかなと。
現代国語の先生が言葉を操る詩人として、谷川俊太郎さんのことを一生懸命に教えてくれました。言葉あそびの世界って感性を広げてくれるし、笑いがあると入って行きやすいですよね。ロシア人っていつも難しい顔をしているけど、実はすごくたくさんジョークを持っている。そういうのを楽しむ文化があるんです。そういう意味で、だじゃれは日本式の言葉遊び、歴史ある文化なんじゃないかなと思います。
家族からは「芸人じゃないんだから!」と指摘されることも多いですが、相手に伝える技術として、だじゃれは安上がりでとても効果的。新しい世界を開いてくれたと思っています。
Q :
お金をかけることなく橋を架けることができるわけですね。
今日はありがとうございました!
<あとがき>
「だじゃれで県知事とお会いする」。事の重大さにはたと気づき、私自身、緊張を伴いながらのインタビューでしたが、誠実でオープン、そして誰よりも鳥取のことを考えて行動されている平井県知事のお話にすぐに惹き込まれました。とってもお心の広い、開いた知事でいらっしゃるなと思いました。
情報公開をとても大切にされている平井県知事。鳥取県庁の「知事のページ」でも「知事日誌」としてその日の出来事を紹介されていますが、今回の訪問のこともしっかりと記されていました!
http://www.pref.tottori.lg.jp/item/1084489.htm#itemid1084489
インタビュー&レポート by 鈴木ひでちか