注目のだじゃらー Vol.29
瀬沼 文彰 さん
- お名前:瀬沼 文彰(せぬま ふみあき)
- 出身地:東京都八王子市
- 職業:大学教員(西武文理大学専任講師)
- 趣味:海外旅行、映画、お笑い(特に最近は落語)
- 私にとってのだじゃれ:手に入れたいスキル
元芸人で現在は大学教員という異色の経歴の持ち主の瀬沼さん。
偶然、瀬沼さんが執筆されたオンライン記事「ダジャレを承認欲求に使うな!アップデートし復権を(日経Biz Gate)」を拝見し、協会の理念と共通する内容も多く、瀬沼さんの考える「ユーモア」「だじゃれ」についてお伺いすべく、インタビューしてきました!
激動の同期とともに過ごした芸人時代
Q(ひでちか) :
まず、瀬沼さんが芸人となられたきっかけから伺えますか?
A(瀬沼さん) :
元々笑いを取るのが好きで友達と文化祭で漫才したら凄くウケまして…そのままの勢いでテレビのオーディションを受けたら200組の中から3組に選ばれました。今の桂文枝師匠からすごい褒めていただいて…これは芸人としていけるだろうと思ったんです。
大学3年生からNSC(吉本総合芸能学院)に入り、そこから4年程、芸人として活動していました。
Q(ひでちか) :
何という芸名で活動されていたんですか?
A(瀬沼さん) :
「瀬沼・松村」というコンビで私がツッコミ役でした。
吉本では又吉、綾部たちのピース、平成ノブシコブシ、キングコング、南海キャンディーズの山里あたりが同期です。
同期がたくさん売れてくれて誇らしいですし、テレビ越しにいい刺激をもらっています。
瀬沼さんの同期はアメトークで「激動の同期芸人」として特集が組まれるほどの濃いメンツ
(テレビ朝日バックナンバーより)
「笑わせる」から「なぜ人は笑うのか」に興味を持つ
Q(ひでちか) :
そこから、なぜ大学教員の道にたどり着いたのですか?
A(瀬沼さん) :
やっているうちに、舞台に立つ中でお客さんを「笑わせる」よりも「人ってどうして笑うのか?」に興味を持ち始めました。そのタイミングで色々な人に相談していたら、同時に3人ぐらいの大人から「お前が考えていることは大学教員になればそっちで食べていけるし、そういうことをしている人はあまりいなそうだから面白そうじゃん」と言われ、「そんな道があるんだ」と思って大学院に進みました。
Q(ひでちか) :
芸人から学問の道には、抵抗なくスムーズに移れたんですか?
A(瀬沼さん) :
大学院に入って最初は不安でしたが、良い指導教員に出会えて学問の面白さを十分に学ぶことができましたね。「なぜ?」を考えることが学問には大事で、「人はなぜ笑うのか?」や「キャラと笑いの関係」などを掘り下げることができました。興味を持てば一本の道に繋がっていくことは、芸人時代にも体験していたことなので。
Q(ひでちか) :
芸人時代の経験は、今も生きていますか?
A(瀬沼さん) :
マーケティングじゃないですけど、芸人時代は舞台を見に来てくれることが多い女子高生・女子大生にどういう笑いがウケるかを観察していました。それがそのまま若者のコミュニケーションの研究に繋がっていますね。
Q(ひでちか) :
なるほど。もともと研究のような「深める」素養はお持ちだったのでしょうか?
A(瀬沼さん) :
ネタ作りも研究に近い部分がありますね。ネタをブラッシュアップするのも楽しかったし、そういうところは研究として積み重ねていくところと似ているかも知れません。
芸人時代の瀬沼さん(右)
文枝師匠から褒められたら誰だって「芸人の世界へいらっしゃーい」だ
「目の前の笑い」ではなく「笑いの枠組み」を広める
Q(ひでちか) :
授業では何を教えているのですか?
A(瀬沼さん) :
笑いやユーモアだけではさすがに厳しいところもあって、もう少し広く、社会学やコミュニケーション学を扱っています。社会学ではレジャーなど、コミュニケーション学では対人関係などですね。実践的な学びというか、ワークショップに近いようなこともしています
Q(ひでちか) :
けっこう広いですね。笑い・ユーモアに特化しているわけではないのですね。
A(瀬沼さん) :
大学で教えていることと研究していることはちょっと絡むかなくらいで。講義が15回あればその中で2回ほどは笑いの話をするかなくらいの頻度です。ゼミではそういう話もしばしばしますが…
Q(ひでちか) :
ご自身の中では「笑い・ユーモア」を柱にされたいですか?
A(瀬沼さん) :
そうですねぇ、そこだけで出来れば幸せなことだと思います。
そのレトリックなど、それを教えたり、広めたりすることで多くの人が日常生活のなかでもっと笑えるような方向性にできるといいなと思っています。
だじゃれ活用協会の考えにも通じるところがあるのかなと思います。
Q(ひでちか) :
そうですね。我々もだじゃれをコミュニケーションスキルの一つとして捉えて、その活用法を伝えることで、日常の会話に笑顔を増やしてもらいたいなと思っています。
日本では親しくならないと笑いは生まれない!?
Q(ひでちか) :
瀬沼さんは笑いの力をどう捉えていますか?
A(瀬沼さん) :
難しい質問ですね(笑)
ストレス軽減になったり、生きていく上での活力になったり…ですかね。
楽しい笑いを増やして良好な人間関係につながっていくと良いなと思っています。また、笑いは共感も生み出すと思うので、分断が懸念されている今の世の中で、笑いが機能していくと良いなと思います。
Q(ひでちか) :
日本の社会における笑いの特徴って何かあるんでしょうか?
A(瀬沼さん) :
日本の笑いは身内ウケが多いなと。基本的には親しくなって相手のキャラが分かってからでないと笑いが生まれないですよね。初対面だとあまり使われないところが他の国と違いますよね。
Q(ひでちか) :
確かに。そういうところはありますよね。
だじゃれも「関係性を作るための入口として使いませんか?」と言っていますが、これがなかなか難しい(笑)「冗談を言える環境や関係性がないと言うのが怖い」という声も多いです。
A(瀬沼さん) :
そうなんですよね。私は旅行が好きでよく海外に行くのですが、他国では笑いを取りながら、初対面の人同士でもコミュニケーションが頻繁に生まれます。
例えばこんなことがありました。
エレベーターで居合わせたおばあちゃんが僕の持っていた大きなスーツケースを見て「どこ行くの?」と聞くので、「日本に帰るんです」と答えました。すると「どのくらいかかるの?」「いや、ちょっと待って、当てるわ!」「そうね…3日でしょ!」(爆)私は「いや、そんなにかからないよ」と返して、エレベーター内が一瞬で温かい空気に包まれました。
こういう笑いが増えたら、世の中もっと明るくなると思うんですよね。
Q(ひでちか) :
ホッコリする良い話ですね。
虹がかかったような幸せな気持ちになりました。
A(瀬沼さん) :
これは、「大げさに言う」という世界では当たり前のように使われている笑いのテクニックの1つですね。
Q(ひでちか) :
例えば買い物でお釣りを受け取る時に「はい、お釣り3億円!」みたいな(笑)
A(瀬沼さん) :
そうです!そういう単純な笑いのテクニックが一つあるだけですごく幸せな温かい気持ちになれますよね。その点、だじゃれは笑いを作る手段として凄く有効ですよね。
だじゃれは“手に入れたいスキル”
Q(ひでちか) :
瀬沼さんご自身も、だじゃれをよく使われますか?
A(瀬沼さん) :
欲しいスキルではあるのですが・・・
Q(ひでちか) :
それは必要性や重要性を感じつつも、あまり得意ではない??
A(瀬沼さん) :
そうですね。理想的には講演などでもだじゃれから始められるとよいのですが・・・地方に行ったらその地方ならではのだじゃれが出せたらなと。できると良いけど、サッと出て来るタイプでもないので・・・。
Q(ひでちか) :
そこは準備でしょうね。例えば、長崎県に行ったら「私、ヒデチカ スズキです。あ、長崎(名が先)だけに名前が先に出ちゃいました。」みたいな(笑)
A(瀬沼さん) :
いいですね!ちゃんと文脈に乗ってるのがスゴいですよね。
ルノアールで笑いのあーるインタビュー。お二人ともマスクは真っ直ぐつけていました。
キャラクターに依存しない分かりやすい笑い
A(瀬沼さん) :
しかもだじゃれのスゴいところって、パクるじゃないですけど、活用が広がっていくところですよね。
Q(ひでちか) :
私は「だじゃれには著作権はない」とよく言っています(笑)
A(瀬沼さん) :
そう!それが素晴らしいですよね、誰でも引用できちゃう。それでいてキャラなしの笑いというか・・・短い言葉だけなので、誰でもサッとマネできちゃう!
Q(ひでちか) :
確かに!だじゃれは誰でもマネできて簡単ですよね。
A(瀬沼さん) :
普通は笑いってマネしにくいんです。「すべらない話」にしても、誰かの話を聞いてそれを話したとしても、経験したことではないので、ウケないんですよね。オリジナルも作るの大変ですし…
だじゃれだとシンプルで短くてすぐにマネできて、とても使いやすい冗談ですよね。
Q(ひでちか) :
siriでもだじゃれを言いますからね。
A(瀬沼さん) :
そうそう、無色無味の笑いというかキャラクターに依存しない笑いって貴重だと思同時に誰が言っても「スベる可能性」もある(笑)います。誰が言っても「ウケる可能性」がある。
Q(ひでちか) :
同時に誰が言っても「スベる可能性」もある(笑)
◇瀬沼さんの著書
『ユーモア力の時代〜日常生活をもっと笑うために〜』(日本地域社会研究所)
負のレッテルをはがし、目指せだじゃれの復権!
Q(ひでちか) :
お話を伺っていて専門家の瀬沼さんに言われるとだじゃれが凄いもののように思えてきました(笑)
A(瀬沼さん) :
今は笑いがすごく高度化している時代だと思います。大学生たちを見ていても「芸人さんのレベルが凄すぎる」「自分たちにはセンスがない」「自分たちにはできない」と捉えてしまっている。そこにだじゃれの出番があるのではないかと感じています。
Q(ひでちか) :
まぁ、大ヒットはないかもしれないけど、まぁいける冗談、「マイケル=ジョーダン」ということですね(笑)
A(瀬沼さん) :
そうです(笑)
ただ、どうしてもだじゃれは、オヤジギャグ的な…負のレッテルを貼られたな~とは感じますね。使う場面を間違ったり、「こんなダジャレを思い付くなんて凄いでしょ!!」とマウントを取ったり…こうした態度がだじゃれの世間的なイメージを下げているので、なんとかしていきたいよなと思います。
Q(ひでちか) :
だじゃれ活用協会でも「“オヤジギャグ”と“だじゃれ”は違う」ということを啓蒙し続けています。まさに「だじゃれの復権」が必要ですね!
今日は貴重なお話をありがとうございました。
<あとがき>
今回は芸人と研究者という2つの立場で笑いと向き合ってきた瀬沼さんにだじゃれについて伺いました。普段何気なく使っていた「だじゃれ」を論理的に解説いただき、後でロンリー(1人)で復習しようと思うほど多くの学びがありました!
キャラに依存せず、初めての人とのコミュニケーション手段としても有効なだじゃれ。
いま、日本への注目度・好感がかつてないほど高まり、日本を訪れる外国人も増えています。スマートなだじゃれをどんどん発して、日本を訪れる海外の人を、甲斐甲斐しくエスコートしていきたいと思いました。
インタビュー by 鈴木ひでちか(右)
レポート by 電気とデニム(左)