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注目のだじゃらー

注目のだじゃらー Vol.30
井上 佳子 さん

井上 佳子 さん

  • お名前:井上 佳子(いのうえ よしこ)
  • 出身地:兵庫県芦屋市
  • 職業:株式会社JR西日本コミュニケーションズ クリエイティブディレクター
  • 趣味:センベロ、鉄道旅行
  • 私にとってのだじゃれ:第3の言語(第1は日本語、第2は関西弁)

JR西日本が可愛い動物のイラストとだじゃれで駅・列車内のマナー向上を呼び掛ける面白い取組みを行っている…そんな噂が本協会に入りました。
この取組みは2018年から始まり、2019年にマナーいきものを一般公募したコンテストではなんと3,500点の応募が来たとのこと。だじゃれ×マナーでポジティブに活用する姿は本協会の目指すものとつながり、学―(マナー)べる部分も多いはず。そこで今回は企画の立役者であるJR西日本コミュニケーションズの井上さんにお話を伺いました。

寝たふリス
▲JR西日本のHPより。あまりの可愛さにほっこりすると同時に玄人(くろうと)も満足する面白さ。


車内マナー広告の歴史

Q(ひでちか) :

「さわやかマナーキャンペーン」は1988年にスタートされているようですね。どのような経緯でだじゃれが取り入れられることになったのですか?

A(井上さん) :

最初は有名なアニメキャラクターや女優さんを起用し、言いにくいことを言ってもらう企画でした。
例えばタツノコプロのガッチャマンを起用し、「誰だ、誰だ、誰だ~、酔って迷惑かけるのは〜?」と主題歌を引用した広告を作ったりしていました。

Q(ひでちか) :

なるほど、それは面白い!

A(井上さん) :

その当時、一番ヒットしたのは鷹の爪団が牡蠣の着ぐるみで「酔って迷惑カキないで!」と伝える広告でしたね。
その後、新進女優さんはじめ、美少女にマナーを啓蒙してもらうシリーズが始まりました。

Q(ひでちか) :

凄い、色々なシリーズがあったのですね。

A(井上さん) :

若者に届きやすいように可愛い女性やキャラクターを起用して来ました。 2018年からゆるいキャラクターとだじゃれを使って、自分たちで作ろうと今の広告が始まりました。
うっかりやってしまいがちなマナーを「ダメじゃないか!」って怒るよりも笑いやユーモアで面白く伝えた方が効果があるのではという試みで「マナーいきものペディア」を作ったんです。
例えば「荷物がうしろでぶつか竜」とか「床の荷物でつまずいたらどないヒョウ」とかですね。

竜&ヒョウ
▲ヒョウが重そうな荷物を飄々と網棚に上げているのが素敵。

Q(ひでちか) :

私も関西の友人から、何度か「こんなのあったよ」と目撃情報が届いたことがあります。インパクトありますよね。

A(井上さん) :

はい、結構Twitterでも人気になりました。
これらの広告って「JR」の文字以外は全部手書きなんです。

Q(ひでちか) :

あー、確かに全部手書きだ。

A(井上さん) :

マナーいきものペディアのタイトルロゴも最初は凄くカッコいいものが上がってきたのですが断って手書きのものにしました。(笑)
できるだけ従来の広告のあり方を出さずにいこうと考えていました。

Q(ひでちか) :

有名なタレントさんやキャラクターを使わないってことですか?

A(井上さん) :

「広告として厳しい、寒い」ことを見てみんなが楽しんで参加してくれたらいいなと考えました。
今まで一方的に有名キャラクターで伝えていたのを、みんなで相互にアイデアを出し合って楽しめるものにした方が今の時代に合っているんじゃないかなと思いました。


「ゆるさ」が「受け入れやすさ」を生み出す

Q(ひでちか) :

それがロングセラーの企画になったのですね。一番ヒットしたキャラクターは何ですか?

A(井上さん) :

「大声で騒ぐとうるサーモン」です。
Twitterでは「切り身やん!」とツッコミが入り話題になりました(笑)


▲一番のヒット作「うるサーモン」。よく見ると話し声が「カルパッチョ」。細かな笑いに思わずおぉとさけんでしまいました。

Q(ひでちか) :

手書きにしたのはどんな思いやねらいがあったのですか?

A(井上さん) :

笑いや優しさ・ゆるさを加えて伝えるためですね。
結果、ゆる〜くやった方がみんな注目してくれました。禁止と言われるとみんなイラッとするじゃないですか。

Q(ひでちか) :

反発したり構えられたりしますよね。

A(井上さん) :

「大声で騒ぐな!」って言われるより「大声で騒ぐとうるサーモン」って言われたほうが可愛いし伝わりやすいと思っています。

Q(ひでちか) :

動物たちのやっている行動は基本的にはBADマナーを描いているのですね。
面白いですね。普通、マナー広告って「こういう行動はNGです」というトーンで書きませんか?

A(井上さん) :

これ隣には良いマナーを書いていて…例えば「座席で広がらずにつめなイカ」であれば「つめたらみんな座りやすいじゃなイカ」っていう風に全ての絵がBefore&Afterになっています。

Q(ひでちか) :

本当だ、お見事!


▲Beforeではゲソだけにみんなゲッソリ。Afterではルールを守ってイカしてる!

A(井上さん) :

マナー違反する人を悪者にしたくないんですよね。

Q(ひでちか) :

悪者にしたり、責めたりせず…。愛がありますね!

A(井上さん) :

マナーは誰しもが守る人でもあり、破る人でもあると思っています。
そのくらい柔軟性を持って、ついついやっちゃうよねっていうスタンスで寄り添っていきたいと思っています。

Q(ひでちか) :

この辺り、何か関西であることは関係しているのでしょうか?

A(井上さん) :

関西ってアホなこと・笑いが好きで、上から目線を凄く嫌うんですよね。
自分を下に落として笑いを取ることで、相手の懐に飛び込んでいくようなところはありますよね。

Q(ひでちか) :

だからキッチリではなく手書きでゆるくにしたんですね。
実際公開されて世の中の反響ってどうでした?

A(井上さん) :

Twitterとの親和性が高かったです。やっぱり言葉なんでしょうね。

Q(ひでちか) :

勝手に拡散してくれるのですか?

A(井上さん) :

そうなんです、色んな人がマナーの生き物について呟いてくれました。
うるサーモンなんてつい1週間前も呟かれていて…「JR西日本のうるサーモン好き」みたいなツイートがかなり出てきます。


▲井上さんのうるサーモンへの熱い思い。サーモンも思わず炙りサーモンになる!?

Q(ひでちか) :

うるサーモンが作られたのは随分と前ですよね?
長きにわたって、今も使われているって凄いですね。

A(井上さん) :

今までJRの広告は本社が一括で作って各駅に支給していました。今回は自分たちで作ったキャラクターなので使い方をゆるめたんです。その結果、各支社から「うちではこう使いたい」って要望がたくさん届きました!

Q(ひでちか) :

タレントさんやアニメのキャラクターだと色々と縛りがあってゆるくはできないですよね。

A(井上さん) :

そうですね。自分たちでライセンスを持っていると自由度が高まるので、色んな地域で独自のノベルティが作られています。
例えば広島ではラッピングの電車…石川では付箋の配布、各支社が自分たちで考えて広がっていくのが面白かったですね。

Q(ひでちか) :

カスタマイズというか各支社で部分最適化されてるんですね。

A(井上さん) :

ちょうど福井県でも独自のマナーキャンペーンを行っています。データを渡しているのでよっぽど変な使い方でない限りは勝手にやっていいですよと。


▲各支社独自のマナーを啓蒙。こうした努力が福井に福音をもたらす!

Q(ひでちか) :

私もちょうど先ほど、大阪駅から来たのですが大阪駅でも大きな展示がありました。


▲こちらは大阪駅でのマナー展示。おぉ~盛んにやってるね。

A(井上さん) :

本当にそんな感じで広がっていきましたね。


だじゃれが苦しければ苦しいほどヒットする

Q(ひでちか) :

だじゃれを作るうえで意識していたことはありますか?

A(井上さん) :

「だじゃれが苦しければ苦しいほど広告としてヒットする」という思いで作ってました(笑)

Q(ひでちか) :

というと?

A(井上さん) :

先ほどのうるサーモンに対する「切り身やん!」ってツッコミもそのパターンです。
これは少し確信犯的にやっていました(笑)例えば「ドアが閉まりそうでかけこミジンコ」はミジンコにしなくていいところでわざとミジンコを出しました。そうすると「ミジンコが出てくるか!?」とツッコミが入ったり、日本ミジンコ協会の博士みたいな人からも取り上げられたり(笑)


▲ミジンコ協会の博士はミジンコが出てくるなんて微塵も思っていなかっただろうなぁ。

Q(ひでちか) :

面白い。Twitterの人たちのツッコミも含めての作品なんですね。

A(井上さん) :

そうです。だから動物もだじゃれもツッコミどころを残すために、わざとちょっと苦しいものにします。そうすることでより広げていってもらえます。

Q(ひでちか) :

広告を見ている人の反応をうまく活用されたのですね。

A(井上さん) :

反応がないのが一番寂しいじゃないですか。
今って面白い時代でお金をかけずにゆる〜く作ったものの方がTwitterで反響を貰えるので、意外と肩の力を抜いて作るのが大事なのかもしれないですね。

Q(ひでちか) :

何か苦労されたことってあります?

A(井上さん) :

苦労は特に…(笑)
普通はだじゃれを成り立たせようとして苦しいじゃないですか。苦しければ苦しいほど面白いという考えでやっていたので…「今回の変やけど、まぁいいか」って(笑)


だじゃれを考えることはマナーを考えること

Q(ひでちか) :

コンテストもされてましたよね?


▲2019年に開催された「第2回ちょっとちょっとなマナーいきものコンテスト」

A(井上さん) :

第2回のコンテストでは3000以上の応募がきました。

Q(ひでちか) :

凄いですね、20倍くらいだ。
コンテスト全然来んですとならなくてよかったですね。

A(井上さん) :

そうですね(笑)まさかこんなに来るとは思っていなくてびっくりしました(笑)
まずはマナーのいきものを作って絵を描いてもわらないといけないのでけっこう…。

Q(ひでちか) :

ハードル高いですよね(笑)

A(井上さん) :

そうなんです。夏休み前にコンテストのチラシを作成して各小学校に配ったら課題として出してくれる学校が多くあってその効果もありましたね。

Q(ひでちか) :

コンテストは小学生を対象に考えられていたんですか?

A(井上さん) :

いいえ。小学生から大人まで幅広く公募はしてました。
実際、意外と大人の方の応募も多かったです!

Q(ひでちか) :

大人からも(笑)

A(井上さん) :

1回目のコンテストで「かけこみみずく」「ちょっとマンタ」がTwitterで反響が凄くて。それもあって第2回は思った以上に応募がきましたね。


▲応募者の自由な発想がある作品も素敵。可愛いマンタに元気満タン

A(井上さん) :

入賞作品はJRの駅で「マナーいきものギャラリー」を開いたら喜んでもらえましたね。


▲入賞作品を集めたギャラリーの様子


実際に車内マナーが向上した

Q(ひでちか) :

井上さんのお気に入りの作品はあります?

A(井上さん) :

どれも好きですが、印象に残っているのは「ついついペラペラッコ」です。
コロナ禍でこれを作った時は、広告でやるほどコロナの対策は定着したのだなと感じました。

Q(ひでちか) :

マスクをつけて会話を控えることがスタンダードになるのだなと。

A(井上さん) :

はい。座席を詰めようとか、ちゃんと並ぼうと一緒で一般的なマナーになるのだなと思いました。


▲その時々の時代の変化に合わせてマナーも変わっていく。

Q(ひでちか) :

かつてのキャラクターを使用した時代よりも予算はかかってないかと思います。
お金をかけずに企画を考える上で、だじゃれはどのように役立ちましたか?

A(井上さん) :

共有が早いこと、量産がしやすいことですね。
1つ1つがフワッとしていてもどんどん出すことに意味があります。
これがテーマを決めてキャッチコピー考えてタレントさん入れてキッチリ撮影して…となると3か月に1本は難しいです。

Q(ひでちか) :

僕はよくだじゃれをお菓子と駄菓子の違いで喩えています。
お菓子はちょっと高級な感じ、駄菓子は親しみやすいし値段も安いので多くの人が気軽に手に取れるのかなと。

A(井上さん) :

あとは嫌われない。駄菓子が嫌いって人はいないですよね。

Q(ひでちか) :

そうですね。種類も多いので好きなものだけ食べることも出来ますしね。

A(井上さん) :

だじゃれを使い出して、多くの人に親しんで見てもらえていると思います。

Q(ひでちか) :

この取組みはまだまだ続きそうですか?

A(井上さん) :

あくまでクライアントの方針に従いますが、この企画に代わるものが見つからないですね(笑)
コンテストも出来る、いろんな人が参加できる、Twitterとも親和性も高いとなると変える理由が見当たらないです(笑)

Q(ひでちか) :

穴がないですね。あーなんて、素晴らしい!(笑)
ちなみに「マナーいきものぺディア」の商品化の話はないのですか?

A(井上さん) :

うれしいことに、そういう話も少しずついただくようになってきました!

Q(ひでちか) :

それは、凄い。ますます広がっていきますね。オフィシャルの情報楽しみにしています。
本日はありがとうございました!



<あとがき>

インタビューで印象的だったのは井上さんの「マナー違反を悪者にしたくない」という言葉。
マナー違反をついついやっちゃうよね、次からは気を付けようと笑いと優しさで包み込むだじゃれの見事な活用法を聞かせていただきました。次回のコンテストには横暴なマナー違反者のビフォーアフターを描いて応募したいです!

インタビュー

インタビュー by 鈴木ひでちか
レポート by 電気とデニム

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