Vol.3 富士宮やきそば学会・渡邉英彦さん
- お名前: 渡邉 英彦(わたなべ ひでひこ)
- 生年月日: 昭和34年2月3日
- 出身地: 静岡県富士宮市
- 職業: 富士宮やきそば学会会長/一般社団法人愛Bリーグ本部 代表理事
- 趣味: 万年筆収集、ギター
- 私にとってのだじゃれ: 子どもみたいなもの
「今月のだじゃらー」第3回ゲストはご当地グルメでおなじみの「富士宮やきそば」の名を全国に広めた富士宮やきそば学会の会長であり、B-1グランプリを主催する社団法人愛Bリーグ本部の代表理事でもいらっしゃる、渡邉英彦(わたなべひでひこ)さんです。富士宮市に「9年間で439億円の経済波及効果」をもたらしたと試算されている、驚きのだじゃれプロモーション。まさに「麺からウロコ」のエピソードの数々を伺ってきました。
Q :
テレビで「だじゃれで439億円の経済波及効果」という番組を拝見して、富士宮やきそば学会のことを知ったのですが、これは本当なのでしょうか?
A :
本当にその通りなんです。やきそば学会を立ち上げて15年になりますが、そもそもだじゃれで成り立っているような活動です。だから、だじゃれじゃ簡単には負けないですよ(笑)
元々、我々はやきそばを売りたかった訳ではなく、富士宮の町を何とかしようというところからスタートしました。やきそばという地域の素材をつかって富士宮を発信して行こうとしたんです。モノはあっても、発信がうまくできないとダメなんですね。そして、どう発信して行くかを追求しようとしたら、言葉が大切でそれがだじゃれだったんです。
富士宮では昔から、駄菓子屋を中心にやきそばを食べさせる店がたくさんあったのですが、そのやきそば店の調査活動をするために最初に結成したのが、「やきそばG麺」です。「G麺」の語源は、アメリカFBIの捜査官(Government-men)の略から来ていて、「Gメン75」というTV番組のパクりです。庶民的な食べ物であるやきそばに対して「やきそば学会」を作ったり、「G麺」という活動を始めたらマスコミが面白がってたくさん取り上げてくれたんです。
その後も、全てその路線で来ていて、15年間の蓄積はものすごい量になっています。お店を観察してもらっても分かるように、だじゃれが満載です。お酒の「だいびんじょう」に、スイーツに見せた「麺ブラン」に「あ宮(あみゃー)」、絵馬にかけて「麺馬」、浅間大社に対して「選麺大社」・・・
次々に登場するだじゃれネーミングの数々。左から「だいびんじょう」「麺ブラン」「麺馬」
商品化もたくさんしていて、ビジネスにもつなげているので、私がやっているのはだじゃれビジネスみたいなものです。15年間、自前で全部やって来ましたが、お金をかけなくても面白いことを考えればマスコミは勝手に取り上げてくれます。なぜ富士宮やきそばがこれだけ取材の回数が多いかというと、やきそばが美味しいからではないんです。伝え方が大事なんです。
やきそば学会のある「お宮横丁」。幟には「う宮!(うみゃー)」、お賽銭箱には「開麺」の文字が!
Q :
実に見事なだじゃれネーミングの数々。ネーミングは渡邉さんがお考えになるんですか?
A :
ほとんど私ですね。言葉には結構、こだわりを持っています
Q :
だじゃれは子どもの頃からお好きだったのでしょうか?
A :
はい、小さい頃からウケねらいでよくやっていましたね。小学校のお楽しみ会で友達と二人でだじゃれをやったのを覚えています。「隣の屋根が汚いね」「やーねー」とか、くだらない内容だったと思いますけどね(笑)
Q :
富士宮のまちをPRしていく際も、だじゃれというアプローチが自然と出てきたのでしょうか?
A :
そうですね。我々にとっては、モノ売りではなく布教活動みたいなもので、いかに多くの人に富士宮を伝えるかというミッションがあります。
地方創生のためのご当地グルメで一番下手なのがマーケティングです。理論的には、マーケティングに乗せないとモノが売れる訳がない。ところが、みんな作ることには一生懸命なんだけど、元々あるものをいかにうまく伝えていくことにはあまり目を向けません。本来やるべきことは、従来からそこにあるものをいかにうまく伝えて行くかなんです。
やきそば自体に特徴があることは食べてみて初めてわかることであって、まずは広く伝えないことにはそれも分かってもらえず、ブームにはならないんです。富士宮やきそばはモノとPRの両方がうまく噛み合うようにバランスよく、やってきました。その伝え方の手段として、活動自体を面白く伝えるためのキーワードが「だじゃれ」だったんです。
Q :
特に思い入れのあるネーミングや傑作はありますか?
A :
「G麺」の後には、全国のイベントへのやきそば出張サービスとして「Mission麺possible(ミッション麺ポッシブル)」というのもやりました。誰もが知っているトム・クルーズ主演の映画「Mission Impossible」に掛けた訳です。そうしたら、地元のテレビ局の企画で、「シークレット・ミッションキャンペーン」というのが実現しました。やきそば店に映画のポスターが貼ってあって、QRコードを携帯で撮影して懸賞に応募すると、トム・クルーズの来日に合わせてプレミアム試写会が当選するというものです。やきそばを食べてトム・クルーズに会えてしまう。だじゃれから始まって、こちらは一円もお金を出さずにそんな企画が生まれたんです。
お金を使わないPRとしては、有名人をやきそば親善大使にする「ヤキソバサダー」というのもあります。英語で「大使」のことを「Ambassador」と言いますよね。やきそばの親善大使で、「YAKISOBASSADORです。こちらから有名人を「ヤキソバサダー」に任命して、出演料タダで、富士宮やきそばの普及に協力してもらうんです。
例えば宇宙飛行士の山崎直子さんとは、シアトルで日本のご当地グルメを紹介するイベントでご一緒しました。そのパーティーの席で、山崎さんに富士宮やきそばを食べてもらって、「まちおこしに取り組んでいます。何の義務もないので、名前だけ貸してください。」と言って「ヤキソバサダー」に任命、スピーチにご協力をいただきました。
商品で行くと「だいびんじょう」ですね。やきそばにあう日本酒があっても良いのでは?ということで大吟醸に掛けて「だいびんじょう」を作りました。あまりフルーティーだとやきそばの味とバッティングしてしまうので、サラッとしたお酒です。やきそばを食べながらこれを冷酒で飲むと結構いけますよ。
Q :
やきそばブームに便乗した訳ですね?(笑)売れているんですか?
A :
そんなには売れてないです(笑)特に宣伝もしてないですし、まぁ、遊びなんで。でも、面白がってもらえて、もう10年くらいのロングラン商品になっています。
他にも「富士宮やきそばアカデミー」といって、やきそばの焼き方や富士宮の取り組みを勉強してもらう学校に全国から参加いただいています。卒業テストもあって、これに合格すると「麺許皆伝」となる仕組みを作りました。
Q :
本当にビジネス化されるところが実に見事ですね。我々、「だじゃれ活用協会」もだじゃれを活用して、どのようにビジネスモデルをつくるかで試行錯誤しています。
A :
だじゃれは“カタチ”にして初めて意味があると思います。よく、「オヤジギャグは滑っておしまい」と言われますよね。でも私のだじゃれは滑ることがありません。なぜなら常に“カタチ”にし続けているからです。講演などでも「言葉を“事(こと)”にする」ことが大切といつもお伝えしています。
Q :
先日、我々だじゃれ活用協会でも「だじゃれ笑てがみ」という絵ハガキを作ってみました。
A :
とてもいいですね。
やきそばとはまた別の取り組みですが、言葉を活かすという文脈で、デジタルではないアナログの「手書き文化」を復活させようと、万年筆を使う人を増やすための愛好会を作りました。その会の名は「筆楽宴(ひつらくえん)」」と言って、私の肩書は「火付け役」ならぬ「筆化役」です。
お酒を飲みながら、文房具を商品化するのが主な活動です。万年筆を入れるケースのことを「ペンシース」と言います。普通は筒状になっているのですが、こちらはケースが透明になっていて、「シー・スルー」と言って商品化しました。中に入れてあるのはヒノキを素材に地元の材木屋に加工してもらった、世界に10本しかない万年筆です。
渡邉さんが手にされているのが中が見える透明な万年筆ケース「シー・スルー」
Q :
だじゃれを起点にして、全て地元の経済活性につながっているところがすごいですね。
A :
そういう意味では、バスツアー会社と組んで、旅行者が富士宮までやきそばを食べに来るツアーもやっています。その時に食事券となるのがこの「麺罪符」、「麺罪符」を使えるお店は「麺税店」です。単にやきそばを食べて旅行するだけだったら面白くないですよね。「麺罪符」を使って「麺税店」で食べるというシステムに面白さがありますよね。
渡邉さん(左)から手渡された「麺罪符」に惚れ込む代表理事(右)
Q :
それだけのだじゃれアイディアを量産するためのコツはありますか?
A :
広く浅く、水平に色々な横のつながりを考えることですかね。私は常に多方面にアンテナを張っておいて、一見、関係のないもの同士を掛け合わせるのが得意なんです。
例えば、実は富士宮はニジマスの出荷高が日本一なんですが、うまくPRできていませんでした。そこで、そこにゴルフを掛け合わせて、「鱒ターズ選手権」というゴルフコンペを仕掛けました。マスターズでは、昼食にニジマス料理を出したり、商品もニジマス関連。始球式でもオレンジ色の「いくらボール」を使って話題づくりをしています。ゴルフをやっている人はまずはニジマスをアピールしないだろうし、逆もまた然りです。そんな風に水平に展開して行くと、意外なものがたくさん生まれて来ます。
Q :
何か今後の展望や実現したいことはありますか?
A :
だじゃれの世界は、まだまだアカデミックな追求はされていないと思います。言語学的なアプローチがより進んで、そのアカデミックなところに我々が接点を持って、社会言語学的な産物として、だじゃれが地方創生に効果をもたらすといったストーリーが創れたらと考えています。
言葉の力を楽しく有効に使っていけば、そこに利益が生まれます。マイケル・ポーターが言っていますが、ビジネスの永続的な成功には、「経済的な価値」と「社会的な価値」の両方を満たさないといけないと思います。簡単に言うと、自分の儲けだけ考えていてはダメで、自分のお店が儲かると同時に、周りにも好循環を生み出すような視点が大事です。かといって、あまり固く考えすぎてもダメ。異質なものを組み合わせながら、楽しく柔らかくやっていくことが大切で、そこにだじゃれが役立っているんです。
Q :
渡邉さんの富士宮の町おこしは、「だじゃれを活用すれば、まちも元気にできる」という我々が提唱する考えの格好のロールモデルです。最後に何か私たち、だじゃれ活用協会にもアドバイスがあればお願いします。
A :
単なる「だじゃれ」とは違うよ、というところを追求できる余地はまだまだあります。だじゃれ活用協会の取り組みは、一見、鼻で笑われそうなものに対して社会的な権威づけを高めていってくれる側面が大きいと思います。だじゃれから本質をつかんでいく取り組みに大いに期待しています!
Q :
今日は貴重なお話を本当にありがとうございました。我々の活動にとってもたくさんのヒントと勇気をいただくことができました。今後も是非、ご一緒させてください!
A :
はい、何かご協力できることがあったら言ってください。是非、がんばってください。
「選麺大社」の前で「だいびんじょう」と「爆笑する組織」を手にパチリ!
<あとがき>
渡邉さんの口から次から次へと飛び出すだじゃれネーミング、そしてエピソードの数々にとにかく麺食らい、圧倒され続けた1時間でした。約15年に渡る、だじゃれを活用した富士宮市の町おこしの軌跡はまさに奇跡的!本当に感動しました。
インタビューの最後に、「渡邉さんにとってだじゃれとは?」と伺ったところ、「子どもみたいなもの」とお答えをいただきました。その心は、「いいだじゃれは社会で活きてみんな活躍している。安産もあるけど、苦心して生み出したものもあるから」とのこと。
共感ポイント麺載で、DKJPの活動の先に実現する未来を見させてもらっているような幸せな時間でした。